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  • 執筆者の写真TAG Think About Goals.

ベスト10冊 of 2020年

2020年も残りわずか。


皆さん、大掃除もどうにか片付き、今年1年を振り返っていると思います。


今回は振り返りついでに、僕が2020年に読んだ本の中から、特に素晴らしかった10冊を発表したいと思います!年末年始のお休みのお供に、ぜひ読んでみて下さい。



ブログを読む時間のない方のために


中国発の本格SF小説。展開はとてもオーソドックスですが、テクノロジーの描写が繊細で、ビジネス書としても秀作なのではないかと思わせます。この作品は三部作になっていて、3冊一気読みできる面白さ。


中でも、僕のオススメは1作目。文革で迫害された知識階級を父に持つ主人公が、それでも敢然とテクノロジーと対峙し、希望を委ねる。結果、人類に対する深い絶望を味わうことになる。なんとも切ないストーリーで、垣間見える心理描写に胸が締め付けられます。訳者が素晴らしく、不自然な日本語はほとんどありません。

人間と悪との関係は、大海原に浮かぶ氷山の関係かも知れない。海も氷山も同じ物質でできている。氷山が海と別のものに見えるのは、違う形をしているからに過ぎない。

「違う形をしているからに過ぎない」は痛烈な言葉。僕たちは、日常生活で物事を捉える時、「同じ形かどうか」だけを確認しているのに腐心している。そんな反省も浮かび上がってきます。


イタリア人科学者、パオロ・ジョルダーノのエッセイ集です。


2020年は新型コロナウイルスとの闘いでした。人類史に刻まれる、出来事だったと思います。いや、まだ過去形にはできませんね。人類社会は疫病との闘いの歴史だと、改めて思い知らせてくれる、そんな年でした。


ウイルスは自然災害と異なり、「目には見えない」という特性が不安を加速度的に煽ります。疑心暗鬼は接触の恐怖を生み、差別にも繋がる。人種差別は、人類が疫病からコミュニティを守るために進化適応的に見に付けた所作だと思えてきます。


この本は、あとがきが主役です。「僕は忘れたくない」から始まる、パオロ・ジョルダーノの渾身の言葉を読んでほしい。

全てが終わった時、本当に僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか。

新型コロナウイルスで多くのものを失ったけれど、喪失したものばかりではなかったはず。目の前の苦しさに前時代を美化しがちな言説において、極端に触れない考えを持っていたいものですね。


日本では、学校教育でも、会社でも、「大きな夢を持つ」ことの大事さを訴える文化が根付いています。それを「ハラスメント」と一刀両断する、刺激的な1冊。


僕は「夢」=「ハラスメント」という視座には一理あると思っています。


成功の理由を「夢」に求めた方が、説明が楽だったり、人員の統制が効く。成功者が夢を持って努力したことにすれば、誰もが同じように勤勉に努力して、余計なことは考えなくなる。管理側にとって、「夢」とはたいへん都合の良い概念なのです。


人類の職業感は歴史とともに変わっていき、生きるため、神のため、金稼ぎのため、成功のため、そして今では「自己実現のため」に変容しています。これが「夢」とイコールの関係です。


僕が「夢」を殊更振りかざすことを危険視しているのは、一種のドーピング状態に陥ることを危惧しているからです。報酬系が過度に刺激され、情熱と称する実質的な脳内麻薬に身体が支配される。ギャンブル依存症、麻薬中毒と大差ない状態に追い込まれ、身を滅ぼす人が散見されます。

若者たちへの夢の装着に傾注し過ぎるあまり、ただの秀才の量産という副作用を生じている。

大きな夢より小さな成功体験を積み重ねる大切さを、小さな頃から教えておくべきなのにな、と感じます。


日本と西洋との違いから分かるように、僕たちは同じ人類であっても、意思の伝達方法に大きな違いがあります。では、具体的に何が違うのか。この本では具体的に下記の8つを挙げて、丁寧に紐解いてくれます。

  1. コミュニケーション

  2. 評価

  3. 説得

  4. リード

  5. 決断

  6. 信頼

  7. 見解の相違

  8. スケジューリング

この違いが理解できれば、不要な誤解や諍いが生じにくく、円滑な関係構築ができるようになるでしょう。「多様性」という言葉が定着して久しいですが、まず何よりも、他者の文化に対する解像度を上げることからです。


こちらにも詳細な感想を書いていますので、是非ご覧ください。


さすが佐々木俊尚さん!という感じの1冊。いきなり「未来はあなたの前にある?後ろにある?」という問いから始まり、深い洞察とエビデンスから、時間という概念の存在を揺さぶり始めます。

時間はあくまでも観察されるもの。時間は長い過去と現在だけがあり、未来は持たない。

かねてより、哲学の世界においても「未来」とは時制として成立するかは積み残しの課題となっています。未来とは人の認知の中だけに存在し、人が何らかの「意思」に基づいて創出された結果です。言い換えれば、「意思」が「未来」という概念を生んでいるだけ。このあたりの詳細に興味あれば、こちらをご覧ください。哲学の世界にようこそ。


僕たちの思考構造は過去、現在、そして未来に繋がり、現在の何らかが未来に影響を及ぼす。時間の流れに、因果関係を見出しているのです。しかし、AIに代表されるテクノロジーの時代では因果が解体され、確率論に収斂されていきます。


僕たちの生きる時代は、こうした世界の捉え方の変化に差し掛かっており、テクノロジーの理解や物事の解釈に関する重要な知見を得られる1冊です。


名著中の名著「失敗の本質」から紡がれる本質シリーズの最終巻。近代の戦争史を舞台に各国の戦略を解析し、なぜ失敗したのか、なぜ考えるに至ったのかといった、戦略立案の本質を鋭く論考する1冊です。


軍事におけるノウハウは、そのまま日常生活においても活用できるものが多いです。それもそのはず。ビジネスの世界での思考様式は、基本的に軍事で成立した概念の移植です。軍事と聞くと何か物騒なイメージがありますが、国防を含む「自国を守り、他国と均衡を保つ」ことは全て軍事です。

軍事戦略は、たえず変化し続ける現実を、感性を駆使して「共感」することから始まる。

この本では、末端の兵士までいかに早く、正確に、意図や指令を伝えるかの鍵を「共感」と位置付け、物語り(文中では「物語」と「物語り」を区別して論じられています)の必要性が論じられています。現代マーケティングにおいて重要視される要素ですが、軍事の世界では遥か昔から着目されていたことに驚かされます。戦争史、軍事戦略のみならず、ビジネスに重要な示唆が詰まった、読み応えのある1冊です。


哲学の歴史上、もっともネガティブな人物だったと言っても過言ではない、ルーマニアの思想家、エミール・シオランの解説本です。日本ではあまり馴染みのない名前と思いますが、僕は中学の頃に偶然「生誕の災厄」を読み、むき出しの絶望感に逆に清々しくなったのを覚えています。

君は勝つかもしれないし、負けるかもしれない。いずれにせよ、どうでもいいではないか。

争いや喧嘩、果ては戦争に至るまで、原因は人間の「一生懸命さ」にあるとシオランは説き、「怠惰こそ美徳」と断じます。なるほど、「成功したい」「勝ちたい」「何かを達成したい」と意欲を燃やすがゆえに、軋轢が生まれるというのは一理あると思いませんか。


僕たちは「ポジティブ=良いこと」「ネガティブ=良くないこと」という単純化した図式で思考を縛りがちです。しかし、突き抜けたネガティブには、根拠のないポジティブよりも説得力があり余計な力を抜いてくれる効果があったりします。読後感も意外なほど爽やかですので、気負わず軽い気持ちで読んでみるのをオススメします。


「新しい発想を出していこう」と言いつつ、新規事業に対する腰が重たい。

「生産性を上げよう」と言いつつ、無駄な会議はなくならない。


言行不一致は、人にも組織にもよく見られるものです。別に嘘を付いているわけでも、騙しているわけでもありません。掛け声を上げながら逆の行動に陥るのは、悪人だからではなく、むしろ極めて優秀ゆえの習性なのです。

ほとんどの人は自分で思っている以上に、いつも恐怖にさらされているのだ。

端的に言うと、言行不一致は「恐怖」によるもので、この心理的恐怖を抑制する機能を筆者は「免疫」と呼んでいます。何か新しいものに出会った時、何かを変えなくてはならないとき、優秀であるほどに「免疫」が強く働き、強力な現状維持、言い換えれば「現在への過度の適応」を顕現させてしまうと言うのです。


免疫は異物から身を守る重要な機能ですが、過度に働けば、身体にダメージを与えるもの。人と組織が適切に変わるためには、まず自分にどんな免疫があるか直視し、適切に「恐怖」と対峙する。それがケーススタディとともに紐解かれていくので、「あるある」と頷きながら読み進めていけます。


格差が声高に叫ばれ始めて久しいですが、格差の結果で生まれた生活実態にフォーカスした言説は驚くほど少なく、ほとんどの議論は政治的イデオロギーに回収されてしまいがちです。この本は、東京で貧困に喘ぐ人々の生活実態を追ったルポタージュ。格差是正議論の中で置いていかれがちな当事者のリアルな姿に光を当てた1冊です。

生活保護の受給には一定の審査基準が存在するのはもちろんだが、多くの人はそこに至る前に「支援を求めるべきか否か」の判断ができない。 そもそも「自分は支援を必要とするほど困窮している」という自覚がないため、なんとか自力で生活を立て直そうと必死になり、根本的な解決までたどり着けないのだ。

貧すれば鈍するというだけでなく、格差議論を囃し立てるメディアは、あまりに極端な貧困をスキャンダラスに報じるあまり、「まだ救えるレベルの貧困の人たち」が自分自身の貧困を自覚できない問題もありそうです。


多かれ少なかれ、誰にだって「難しい時期」や「調子の悪い時期」、「めぐり合わせの悪い時期」がある。そんな時に、自力で頑張り抜く規範が思考を拘束し、適切な支援を受けられない現実は看過できません。自己責任などと切って捨てるよりも、救いの手を差し伸べられる人間でありたいもの。格差問題という上っ面の言葉で分かったつもりにならないためにも、手に取っていただきたい1冊です。


「蛇にピアス」の作者・金原ひとみさんの新作。3人の女性の各々の生活の暗部を、とても丁寧に描き上げられた作品です。SFでも、壮大な物語でもない、何の変哲もない日常に潜む「鮮烈なリアル」を掬い取る、金原さんの観察眼や表現力が遺憾なく発揮されています。居酒屋での3人の会話で章立てしていくストーリー展開も、見事の一言。男性の僕は「こんな会話しているんだ」と興味津々に引き込まれてしまいました…。

人生から憎しみを排除することは、愛を排除することと一緒じゃない?
一度も誰かの重要人物にならないで死んでいく人生と、誰かに強烈に憎まれながら死んでいく人生と、どっちがいい?
人にレッテルを張ってそれだけで判断する。そのレッテルがいかに物事を矮小化させているか気付いていない。
所有の概念こそが、他人を排除する意識を自身の中に生じさせてしまう。

登場人物の一人・ユリの発する一言一言が、金原さん自身の思いを代弁するかのように、人間の薄暗い部分を的確に射貫きます。彼女は中盤から読者に「あれ?」と疑念を抱かせつつ、後半から急速に不穏な空気を漂わせ、唐突に幕を閉じます。彼女が置き去りにした謎の答え合わせは、読者であるあなたに委ねられるのです。


 

以上が2020年のベスト10冊でした!

それでは皆さん、良いお年を。

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