top of page
検索

人が動きたくなる3つの習性

執筆者の写真: TAG Think About Goals.TAG Think About Goals.

頑張って営業しているのになかなか売れない、良い企画を考えてもイマイチ手応えがない…。誰もが思い当たる、仕事の悩みです。


この悩み、問題の本質は同じです。どんな仕事でも、「人が動きたくなる」ように工夫することが必要なのです。


それなのに、状況を打破しようと相談しても、「粘り強く頑張ろう」「こちらの熱意をアピールしよう」など、精神論に終始しがちではありませんか。これは強引に「人を動かす」ことにベクトルが向いており、成功確率は高くありません。


「人が動きたくなる」と「人を動かす」は似て非なるもの。「人が動きたくなる」とは、つまり人の習性を深く理解し、それに適合した物の伝え方に変えるということです。あなたに足りないのは努力ではありません。工夫です。


そこで、今回は人が誰でも持つ習性を3つ説明します。


1.損失回避バイアス

ひとつめは、人は利益を増やすよりも損失を少なくする方により強く行動動機がはたらくという、損失回避バイアスです。バイアスとは人が抗いようのない「先入観」のことです。プロスペクト理論とも呼ばれ、人間の代表的なバイアスとして知られています。


突然ですが、

  1. ジャンケンで勝てば30,000円もらえるが、負ければ50,000円を支払う

  2. 無条件に、5,000円を差し出す

という2択が迫られたとしたら、あなたはどちらを選びますか?


おそらく、多くの人は1を選ぶと思います。5,000円を理不尽に取られるぐらいなら、50%でも勝つ確率のある方を選ぶ。一見、合理的な選択に思えます。


ところが、期待値を計算すると事情は変わってきます。

  1. ジャンケンで勝てば3万円もらえるが、負ければ5万円を支払う +30,000円 × 50% + (▲50,000円) × 50% = ▲10,000円

  2. 無条件に、5,000円を差し出す ▲ 5,000円 × 100% = ▲5,000円

お分かりでしょうか?

なんと、期待値を計算すると、無条件に5,000円を差し出した方が損失が少ない。つまり、この2択の合理的な回答は2で、勝負をしない方が正解なのです。 でも、なんか釈然としませんよね?


そう、その「釈然としない」感覚こそ損失回避バイアスです。人は「損することが確定している」という状況に強い危機感を覚え、行動を起こしたくなってしまいます。つまり「人が動きたくなる」のです。


では、提案にどう生かすのか。


通常、「この提案をご採用いただくと、年間100万円のメリットが出ます」というセールストークをすると思います。この状態では、なかなか人は動いてくれません。どんなに熱を込めても結果は一緒です。


そうではなくて、損失回避バイアスにはたらきかけるために、「現在、年間100万円ほど損しています」と言うわけです。先ほどの例のように「損が確定している」状況だと認識させ、より動きたくなるように促せば良いわけです。このセールストークは、「メリットの提案」を「デメリットの改善」に言い換えただけです。たったそれだけで、人のバイアスは確実に反応し、結果は違ったものになるでしょう。


損失回避バイアスの強力さは歴史的に証明されており、日本が勝ち目のない戦争に踏み切ったのも、「黙っていれば国土の一部を占領される。それなら勝ち目は薄くても攻撃しよう」という意思決定によるものでした。結果は説明するまでもないですよね。「座して死ぬぐらいなら潔く」は典型的な損失回避バイアスです。特に、日本人は合理的思考が苦手なので、このバイアスが強く作用するというのが、僕の実感です。


2.単純接触効果

ふたつめは、人の印象は一緒に過ごした時間の長さではなく、一緒に過ごした頻度に依存するという心理作用です。理論の提唱者にちなんで、ザイアンス(ザイオンス)効果などとも呼ばれています。


こちらの言い分を理解してほしいあまり、ついつい長時間にわたって説明を続ける。渾身の提案書や報告書ができたので、みっちり時間をとって説明する。いずれもよくよく見られる光景で、なんとなく情熱や粘り強さが感じられ、是とされる文化があるように思います。


ただ、これは明確に間違いです。


だいたい、相手は長時間の説明を覚えちゃいません。そして、残念ながら印象の濃淡は接する時間の長さに比例してくれません。人は一度の接触あたりの印象の総量に限界があり、長時間の接触は単純に濃度を薄めるだけなのです。


では、どうすれば正解かと言うと、1ヶ月に一度の2時間の面談をやめて、1ヶ月に4度の30分の面談に切り替えることです。どちらも時間の総量は2時間/月で変わりません。しかし、相手への印象は明確に異なります。


仕事に応用するならば、10ページの力作の提案書を、3ページずつ3回に分けて説明するということです。1回あたりの時間は短くとも、次回の説明の期待感を煽ったり、商談相手の要望を次回に反映させたりと、提案の魅力も高まる効果があります。


こう考えると「近くに寄ったので、名刺を置いていきます」という営業も、意外とバカにできない効果があると分かります。営業をしていると、どうしても顧客ごとに濃淡ができ、特に話題がなくて足が遠のいてしまう場合も出てきます。そんな時は、単純接触効果を利用し、「名刺を置いていきます」の連絡を入れるだけで印象が薄れるのを防ぐことができたりします。


ちなみに、これは恋愛でも使えます。LINEを送るのであれば、数日おきに長いやりとりをするよりも、毎日短いやりとりを交わす方が効果は高いです。そして、高頻度のやりとりの途中で、ふいにそれが途絶えたりすると相手は気になって仕方なくなる…これ以上はやめときましょう。


3.保有効果

最後は、人は一旦手に入れたものに対して価値を感じ、手放したくなくなる心理効果。保有効果と呼ばれる行動経済学の心理傾向です。簡単に言えば、「物が捨てられない」と言う状態は保有効果が効いているためです。愛着と呼ばれるものも、もしかしたら保有効果と言って差し支えないかも知れません。


保有効果はダニエル・カーネマンの有名な「マグカップの実験」で説明されます。学生をふたつのグループに分け、一方にはマグカップをプレゼントし、他方には何も与えません。そしてマグカップのグループには「いくらならマグカップを手放すか」、何も与えなかったグループには「いくらならマグカップを買うか」と、それぞれ問いました。


結果は、マグカップのグループは「7.12ドルで売る」、何もないグループは「2.87ドルで買う」となり、なんと2倍以上開いたのです。


これは最初に説明した損失回避バイアスにも通じるところがあり、保有効果のメカニズムはすでに持っているものを失う、つまり損失を過大に評価することで起きています。また、そもそも売り手は「失う」側で、買い手は「得る」側というポジションの違いもあり、売り手の損失回避性がより顕著に前景化する影響もあります。物事のポジションや表現で意思決定に影響が出ることをフレーミング効果と呼びます。ある意味、ビジネスの付加価値とはフレーミング効果を最大化するということかも知れません。


ちょっと話が逸れました。それでは保有効果をどう利用すれば良いか。


端的に言えば、無料トライアルです。世の中の多くのサービス、特にSaaSでよく用いられている無料トライアルは別に親切心でも何でもなく、ユーザーに保有効果を持たせるためです。通常の提案では新しいサービスを導入するかどうかという強い意思決定ですが、無料トライアルを介することで、すでに持っているサービスを継続するか否かという弱い意思決定に転化することができます。


無料トライアルの終了期限が近付いた時、サービサーが「継続しますか?」と聞いてくることがあるでしょう。「黙っていればそのまま課金に映るのに親切だなあ」と思ったりしませんでしたか?もちろん、サービサーとしての誠意やコンプライアンスもあるのですが、それ以上に、「新しいサービスの導入」ではなく「保有サービスの継続」という認識を強めるためです。暗に「このサービスのない世界に戻りますか?」と問うているわけですね。


そういえば、コンマリさんの「ときめく片づけ」が世界的にヒットしています。片づけがこれほどまでに求められているのは、逆説的に現代の人々が保有効果にどっぷり浸かっていることの証左です。ミニマリズムの台頭やノームコアのようなファッショントレンド、マインドフルネスに至るまで、放っておくと溢れてしまう保有効果の残骸を、積極的に切り離していこうというムーブメントなのかも知れません。


 

以上が、「人が動きたくなる」ための3つの習性でした。僕は、人間とはファジーではなく、かなり決まった手順で思考と行動があらわれる、極めて変数の少ない動物と見なしています。


いつものお仕事に少しだけこんなエッセンスを取り入れてみると、いつもと違った結果が出てくるかも知れませんよ。

閲覧数:46回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Комментарии


bottom of page