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  • 執筆者の写真TAG Think About Goals.

「幸せ」には2種類ある

「たのしい」は、ぱっと終わる。 「うれしい」は、ずっと残る。

福岡県の商業ビル「イムズ」の広告に掲載された文章で、コピーライターの前田知巳さんの作品です。


シンプルで感覚的な対比が鮮やかな文章で、しかもなんだか心のどこかを撫でていくような。「なんか分かる気がする…」と、頷ける部分がありませんか?


僕は、このコピーは非常に優れた作品だと思っています。というのも、日本語で「幸せ」と1語で表現される概念には、実は「たのしい」「うれしい」という2種類が包含されてしまっているからです。


そう、「幸せ」には2種類があるのです。


happiness と well being


端的に、日本語で「幸せ」という1語で済まされている概念は、英語圏では「happiness/ハピネス」と「well being/ウェルビーイング」の2種類に分類されます。


ハピネスとは「ハッピー」の名詞形で、これはもはや外来語として日本でも馴染みのある言葉ですよね。では、ウェルビーイングとはどのような意味合いなのか。それを知るには、まずハピネスの定義を知ることが早いです。ハピネスとは、感情的な一時的な快楽、地位や名声などのステータス、報酬による高揚を示しています。


一方、ウェルビーイングは自由の実感、周囲への感謝、自己肯定といった、永続的に続く心身の平穏や安定を指し示しています。「より良く生きる」「満足が続く」みたいな意味合いですね。


日本語ではこれら2種類が「幸せ」と翻訳され、混同されています。一般的に、幸福の研究で用いられる「幸せ」とは、ハピネスではなくウェルビーイングを示しています。逆説的に、ハピネスは追い求めるに値する幸せではない、と捉えられているのです。


フローとストック


冒頭の「たのしい」「うれしい」に戻ると、前者は「ぱっと」、後者は「ずっと」です。このままハピネスとウェルビーイングの関係にスライドできるわけですが、もう少し掘り下げていきましょう。


「ぱっと」と「ずっと」の違いは、一時的な動的なものか、永続的な静的なものかという差異です。これはフローとストックにも置き換えられます。幸せには一時的に過ぎ去るフロー的なハピネスと、蓄積され自身の資産となっていくストック的なウェルビーイングがある、と言えます。


他人から見ると、フローの方が目につきやすいもの。なぜなら、自然界において外敵から身を守る術を紡いできた人類は、「変化」に注意が向くよう進化適応してきたからです。ニュースで取り扱われるのは「昨日とどう変化したか」が大部分ですよね。その方がアテンションを集め、数字が取れるから。


でも、人間の究極的な欲求である「幸せの追求」においては、変化はさほど重要ではなく、それよりも地道な「ずっと残る」種類の幸せが大事になるのです。


それなのに、どうして僕たちは「ぱっと終わる」ものに心を奪われてしまうのでしょうか。


ドーパミンによる、ハピネスへの渇望


皆さんは、人間とは複雑で、ひとりひとりが異なり、その思考や行動パターンは多種多様なものと思っていますか?


僕は、全くそんな風に思っていません。むしろ人間とはかなり決まったパターンに限定される、プログラミングに近い思考と行動様式を有する生物だと見なしています。


僕たちが「ぱっと終わる」ものに心を奪われてしまうのも、そのプラグラミングゆえです。


人間の脳には、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が分泌されます。高揚感、理想化、好奇心、未来への展望…それらはドーパミンが思考を駆動しています。僕たちが「モチベーション」と呼ぶ感情も、正体は脳内でのドーパミンの放出です。


トーパミンは「報酬への期待」が引き金になります。そして、ドーパミンの期待値を超える報酬を手にした時、僕たちは「ぱっと終わる」種類の幸せ、ハピネスを自覚します。


それだけなら悪いことではないのですが、ドーパミンは一度手にした報酬に対しては、放出量を少なくしてしまうという特性があります。したがって前と同じ結果に対しては、もう幸せを感じられなくなるというエラーが発生するのです。


典型的なのが、ギャンブル依存症。以前と同じ報酬では、もはや幸せが得られず、ドーパミンの分泌を促すには期待値を大きくする、つまり掛け金を膨らませていくしかありません。高揚感に慣れてしまうと、逆にドーパミンがなければ倦怠感や精神的な落ち込みなどを引き起こしてしまうのです。これは薬物中毒も、同じメカニズムとされています。


ドーパミン放出による期待と高揚感、期待を超える成果・報酬で得るハピネス、ゆえに再度ドーパミンを作用させるには期待値を上げざるを得ない…。ハピネスへの渇望は、このような人間のプログラミングで起きているのです。


情熱よりも常温で


皆さんも「情熱」で状況を打破したことはありませんか?情熱もドーパミンの放出によるものです。高揚感を身にまとい、普段以上の力を発揮する。難局を乗り切る時には、そんな手法も否定はしません。


けれど、それを1年365日続けるのはドーパミンへの過度の依存で、ギャンブル依存症や薬物中毒と同じだと思うのです。ハピネスをずっと追いかけ続けるのは心身に強い負担をもたらし、自己嫌悪や自信喪失、無力感、成功者への羨望や嫉妬に繋がる場合もあります。


単なる脳内物質の多寡だけの話なのに、不要な思考と感情に束縛されてしまう。そんなのは決して「幸せ」ではありませんよね。


それよりも、今まで手に入れたものと今できることを毎日確認して、期待値をコントロールすること。そんな「常温」の状態を大切にしてほしい。ウェルビーイングとは、毎日の積み重ねで得たストックであり「ずっと残る」幸せです。


残念ながら、人間はプログラミングされた構造から逃れることはできません。ハピネスへの衝動に抗うには、幸せの総量をどれだけウェルビーイングで満たせるかに懸かっています。ウェルビーイングは「あるかないか」ではありません。「自覚できるかどうか」なのです。


遠大な目標でハピネスを目指すのではなく、毎日の蓄積を見つめて少しだけ歩みを進めるウェルビーイングとともに暮らしたい。僕たちTAGが「半歩」をコンセプトにしているのは、「ずっと残る」種類の幸せに自覚的になりたいからです。

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